鬼常務の獲物は私!?
「なんだ?」
「所有欲というか、独占欲というか……いえ、あの……」
「独占欲? お前は俺の女。独占するのは当たり前だろ」
助けに来てくれるのも当たり前で、独占するのも当たり前だと言い切る彰さん。
なにを変なことを言っているんだと言いたげな目で見られ、一瞬私がおかしいのかと思ってしまったが、すぐに思い直す。
それは当たり前じゃないよ……。
星乃ちゃんなら多分「私は誰の物でもない!」と怒りそう。
でも私は、そんな彰さんの強くてちょっとワガママな愛情に包まれるのが、たまらなく嬉しかったりするのだけれど……。
彰さんに向けてニッコリ微笑むと、彼の瞳に色が灯った。
吸い寄せられるようにお互いの顔が近づき、唇が触れ合う。
するとコホンと、隣で咳払いが聞こえた。
「なんだ高山、まだいたのか」
「伝えるべきことがありますので。私は営業車で社に戻りますが、神永常務は福原さんと一緒にタクシーでお帰り下さい。明日は9時半から会議がありますのでお忘れなく。では失礼致します」
少々呆れたような声色で一気に必要事項を話した高山さんは、彰さんに黒い手提げ鞄を渡すと営業車で走り去った。
「日菜子、なにか食べて帰ろうか? 一緒に暮らし始めてからまともなデートもしていないし、夜景の見えるレストランにでも……」
機嫌のよさそうな顔で私を誘う彰さんだけれど、その言葉を遮り「ダメです」とキッパリ拒否した。
「太郎くんがいますから。小雪ちゃんも家で待っています。ふたりにご飯をあげてから、簡単な夕食を私が作りますので、今すぐ帰ります」
「また、猫か……」
タクシーを拾えそうな場所まで手を繋いで歩いていると、隣に深い溜息を聞いた。
「俺は太郎には勝てないのか……」
そんな不満げな独り言も聞こえたので、「人間で一番愛しているのは彰さんですよ」と伝えて微笑んでみる。
すると彼が肩にかけているキャリーバッグの中で、太郎くんがドタバタと暴れる音がした。
カバーをめくり網の張った小窓から中を覗き込む彰さん。
その鼻先に向けて太郎くんが猫パンチを一発繰り出している。
網があるから当たりはしなかったけれど、反射的に「いてっ」と言った彼に、私は笑う。
「くそ、いつか太郎より愛されてみせるからな」とおかしな文句を言い、彼はカバーを戻した。
太郎くんと彰さん、ふたりとも一番愛しているのに……。
一番がふたりいても別におかしくないよね?
だって太郎くんは猫だから。