鬼常務の獲物は私!?
鬼の目にも嬉し涙
◇◇◇
「日菜子、結婚しよう」と突然言われたのは、5月の連休も終わった、なんの変哲もない土曜の朝のことだった。
ダイニングテーブルに向かい合って座る私たち。
目の前にはご飯と味噌汁、塩鮭に漬物などの庶民的な朝ごはんが並んでいる。
彰さんは普通の顔で普通に朝ご飯を食べながら、「醤油を取ってくれ」というような極普通の口調で、結婚のふた文字を口にしたのだ。
食べようとしていた里芋の煮っころがしが、私の箸から落ちてテーブルに転がる。
彼は味噌汁をすすって、ご飯を口に入れ、塩鮭の皿を手前に引き寄せていた。
ふっくらと焼いた塩鮭には大根おろしが添えてあり、醤油差しを彼に手渡しながら、あれ……やっぱり今のは醤油を取ってくれと言われたのだろうか……と考えてしまった。
だって、あまりにもサラリとプロポーズするものだから……。
それで、テーブルに落とした里芋を箸で拾い、口に入れ直そうとしたのだけれど、「おい、返事は?」と問いかけられた。
「返事? なんのですか?」
「聞いてなかったのかよ……。
結婚しようと言ったんだ。二度も言わせるな」
再び里芋がテーブルに転がり、私は目を丸くして彼を見つめた。
結婚……私と彰さんが結婚……。
こんなダメな私なのに、本当にお嫁さんにもらってくれるなんて……。