鬼常務の獲物は私!?
「疲れて帰った日でも、笑顔で迎えるお前を抱きしめれば、たちまち元気になれる。
上手くいかずにイラつく時も、お前の顔を見れば肩の力が抜けて、自然に笑うことができる。
目覚めた時に腕の中にお前がいると、泣きたくなるほどの幸せが込み上げてくる。
ああ……愛しいな……。こんなに人を愛したのも、守ってやりたいと思ったのも初めてだ……」
彰さん……。
嬉しい言葉をたくさんもらってしまい、私の涙はしばらく止まりそうにない。
ワイシャツの胸もとがぐっしょり濡れているけれど、彼は私が泣き止むまでずっと抱きしめ、背中を撫で続けてくれた。
その日のお昼すぎ。
泣きすぎて瞼がパンパンに腫れてしまった私は、玄関で彰さんのお見送り。
「行ってらっしゃい。お仕事頑張って下さい」
「明日の打ち合わせだけだから、頑張るほどのことはないんだ。3時間ほどで帰るからな」
「はい、待っています」
明日の打ち合わせがなにかというと……明日、5月某日の日曜日に"神永メディカル、会長・社長就任祝賀会"が都内老舗ホテルで催される予定。
そう、彰さんは先月から常務ではなく、代表取締役社長に就任している。
景仁会グループの新設総合病院に関する、超大口の商談を取りまとめた功績が評価され、内々的に後継者が彰さんに決まったのは2月末頃のことだった。
あとはトントン拍子で株主総会と取締役会で承認議決され、彼の祖父である元会長が退任し、元社長が会長へ、彰さんが社長へと代替わりしたのだ。