鬼常務の獲物は私!?
3人で廊下を歩き、社長室の前に着く。
真ん中が神永常務で、私と高山さんは常務の左右に半歩下がって立っていた。
木目の美しい重厚な扉を前にして、私の中の緊張と不安が急激に膨らんでいく。
昨日の大失態を改めて思い出し、社長の怒りを想像して、手足がかすかに震えていた。
すると、神永常務が私の手を握ってきた。
驚いて顔を上げると、クールな瞳が横目で私を捉えていて、「心配するなと」声をかけてくれた。
昨日も常務は同じことを言ってくれた。
社長は怒っていないから、心配するなと。
本当に怒っていないのだろうか?
心配するなと言われても、不安は消えてくれず、心は怖がったままだった。
私の手を離すと、神永常務は社長室のドアをノックする。
「どうぞ」と中から社長の声が聞こえて、常務は「失礼します」とドアを開けて中に入り、私と高山さんも後ろに続いた。
社長は大きく立派な机に向かい、窓を背にして、黒い革張りの椅子に深く腰掛けていた。
年齢は60代前半で、ロマンスグレーの髪は清潔に整えられ、細身の体躯に高級スーツを着こなす、見た目はダンディな男性だ。
父である会長が始めたこの会社を、社長の代で数十倍規模に大きくしたと聞くから、ビジネスの腕前は相当なものなのだろう。