鬼常務の獲物は私!?
彰さんのスーツのポケットでスマホが震える音がした。
電話してきたのは高山さんのようで、耳にスマホを当てて会話しながら、彼はドアを開けて出て行った。
手を振り見送って、パタンとドアが閉まると、私は「やったー!」と小躍りして喜んだ。
彰さんの輝く場面で、花束を渡せるなんて嬉しすぎる。
比嘉さんの第一印象は知的美人で、ちょっと冷たい人のように感じてしまったが、本当の彼女はとても優しく思いやりのある人だと思う。
彰さんとの恋愛で何度か力になってくれたし、私も比嘉さんの恋を全力で応援する気満々だ。
早速、比嘉さんにお礼のメールをしようと思い、玄関前でクルリと踵を返したら……頭がクラッときて体がふらつき、慌てて壁に手を着いてからしゃがみ込んだ。
やっぱり、まだ治っていないのか……。
ここ数日、こういうことがよく起きる。
なんだか体が怠いし、頭がぼんやりしていつも以上に働かない。体温を測ると発熱とまでは言えない37度前後。
多分、軽い風邪なのだろう。食欲も微妙に落ちていて、コッテリした物は食べたくないし。
しゃがんでいると、すぐにふらつく感じが消えて気にするのをやめた。
左手の薬指に光る指輪を見て、頰を緩める。
比嘉さんにメールをしたら、掃除と洗濯をしよう。彰さんが出かけている内に家中をピカピカに磨いておきたい。
夕食の買い物にも行かなくては。
立派な妻になれる自信はないけれど、頑張る奥さんではありたい。
温かくて居心地がいい……彰さんにそう感じてもらえるような家庭を作りたいと思うから……。