鬼常務の獲物は私!?
翌日。空は気持ちよく晴れ渡り、まさに祝賀会日和という天気だった。
オフピンクのスーツとパールのネックレスとイヤリングを身に付けた私は、都内老舗ホテルの一室にいた。
社長控室として用意されたこの部屋は、普通の宿泊用ツインルームで、祝賀会が用意されているホールと階が違うのでとても静か。
姿見の前でネクタイを締めている彰さんを、私は窓際の椅子に座ってぼんやりと眺めていた。
慣れた手つきでネクタイを形よく締め終えた彼が私を見た。
「どうした、眠そうだな。
まさか今日のことで興奮して眠れなかったとでもいうのか? 花束を渡すだけだぞ」
ちょい役でも、ビックイベントに参加させてもらえるのだから、緊張もするし興奮もする。
でも、昨夜そのせいで眠れなかった訳ではない。
しっかり寝たはずなのに、頭がぼんやりして体がだるいのだ。
風邪のせいだと思うけれど、五月病という線もある。
返事の代わりにあくびをしてしまうと、彰さんは眉間にシワを寄せて近づいてくる。そして額に冷たい手が触れた。
「熱があるんじゃないのか?」
心配そうな顔で覗き込まれたので、今朝測った体温を伝えた。
「36度9分でした」
「微妙な数字だな」
「多分、軽い風邪なので大丈夫ですよ」
背筋を伸ばし、元気そうな顔で笑ってみせる。
折角の晴れの日に心配をかけたくない。それに家に帰って寝てろと言われたら、楽しみにしている花束贈呈ができなくなってしまうもの。