鬼常務の獲物は私!?



入ったドアは会場のステージに向かって右側、中央辺りに位置していて、壁沿いを歩いてステージ横に待機する。

目は既に壇上の彰さんに釘付けだった。

大勢の取引先のお偉い様方が注目する中、スタンドマイクの前に立ち、滔々と話す姿に見惚れてしまう。

ああ……背後に後光が差して見える……。


「神永メディカルの企業理念に基づいた長期ビジョンをーーそのひとつ目として医療現場の信頼を得るためにはーーつまり、努力に終わらず皆様のお声を結果という形でお見せするべくーー」


スピーチ内容は難しくて私の頭では理解できないけれど、なんて立派なお姿なのだろう。

仕立てのよいネイビーのスーツがよく似合う。
34歳という若さでも、堂々と自信に満ち溢れ、彼を頼もしく思わない人はいないだろうと感じてしまう。

夢を叶えた彰さんは素敵。でも、その夢はまだ終わりじゃないはず。

生き生きとしたその力強い瞳が、社長としてこれからやりたいことがたくさんあるのだと、語りかけてくる気がした。


「どうか、倍旧のご指導ご鞭撻のほど、宜しくお願い申し上げます。本日は誠にありがとうございました」


数分のスピーチが終わり彰さんが一礼すると、大きな拍手が鳴り響く。

私は折角の花が萎れてしまいそうなほどにぎゅっと抱きしめて、感動の真っただ中で彼を見つめていた。


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