鬼常務の獲物は私!?
すると比嘉さんに「出番ですよ、ほら早く」と背中をトンと押される。
そうだった……スピーチ後に壇上で花束を渡すのが、私の役目だった。
見惚れるあまりに、うっかり忘れていて、慌ててステージ横の4段のステップに足を踏み出した。
彰さんまでの距離は3メートルほど。
二歩、三歩とステップを上り、左足をステージ上に乗せようとしたら……足が上がり切らずに爪先を引っ掛けて、前のめりに転びそうになってしまう。
ああっ! こんな大事な舞台で、私ったらまたしてもヘマを……。
内心慌てつつ、衝撃を覚悟して固く目を瞑ったが、体はポスッとなにかに受け止められた。
恐る恐る目を開けると、目の前には白いワイシャツの襟とネクタイの結び目があり、「やると思った」という彰さんの声が、頭上から聞こえてきた。
どうやら彼は私がなにかやらかしそうだと、身構えていたみたい。
それで素早く動いてくれたから、私は抱き留めてもらえて転ばずに済んだようだ。
「ごめんなさい……」と謝り、自分の鈍臭さを恥じていたら、会場中がワッと湧いて拍手と笑い声に包まれた。
「社長、やるね〜」「よっ、色男!」なんていうヤジまで飛んできて……。