鬼常務の獲物は私!?
折角の素晴らしいスピーチの余韻が、私のせいで笑いに上書きされてしまった。
そのことに青ざめて「ごめんなさい……」と、さっきとは違う意味で謝ると、彼は私の手から花束を取り上げ、クスリと笑った。
「このくらいで怒るようなら、お前の夫は務まらない。それにお前に惚れるキッカケとなった忘年会に比べたら、大したことないだろ」
忘年会は確かにもっとずっとひどい失態をやらかしてしまった。
元社長に料理を被らせてしまい、挙句に私は失神し……アレに比べたら大したことないミスではあるけれど……。
腰に彼の腕が回されて、そのままステージ中央までエスコートされ、隣に立たされた。
花束を渡し終えたら私の役目は終わりなはずなのに、まだなにかあるの……?
戸惑う私の気持ちは置いておかれ、まだ笑いの消えない会場に向けて彰さんが口を開いた。
「もうひとつ、ご報告したいことがございます。私的なことで申し訳ありませんが……」
私的なことと言われ、まさかと思ったがその通りで、「私、神永彰は、昨日ここにいる福原日菜子さんにプロポーズいたしました」と報告されてしまった。
始まったばかりの祝賀会は、挨拶続きでまだ乾杯もしていない。それなのに会場が急に宴会中のノリになる。
指笛が鳴らされ、おじさん達の微妙にセクハラめいたお祝いの言葉があちこちから投げかけられて……。