鬼常務の獲物は私!?
「日菜……日菜子……日菜子っ‼︎」
何度も名前を呼ばれてゆっくり目を開けると、エレガントな模様入りの天井と左横から身を乗り出している彰さんの顔が見えた。
「あれ……ここは……」
見覚えのある部屋で、すぐに社長控室として使っていたホテルのツインルームだと気づく。
ベッドに寝かされている理由はなんだろう……。
ぼんやりした頭で記憶を点検すると、ステージ上で転びそうになったところから具合が悪くなるまでの一連の流れを思い出した。
忘年会の時に比べたら大したことないと言ってもらえたのに……ヘマをした挙句に意識を失ってホテルのベッドで目覚めるというところまで一緒じゃないかと、つくづく自分に呆れてしまった。
目覚めた私に「大丈夫か?」と彰さんが心配そうに問いかける。
体を打ち付けたような痛みはないから、また彰さんが支えてくれて倒れてはいないのだと思う。
動悸も収まり視界もはっきりしていて、今は具合悪さを感じない。ただ申し訳なさで、心が苦しいけれど……。
「大丈夫です」と答えた後に「ダメな女ですみません……」と付け足した。
すると彼は大きく息を吐き出してベッドサイドの椅子に座り、私の左手を両手で握りしめた。
「お前はダメじゃない。俺が悪かった。
体調がよくないのは知っていたのに、ステージに上げるべきではなかったんだ」
「そんな……私が花束贈呈をやりたかったので、彰さんのせいじゃないです」