鬼常務の獲物は私!?
そして肝心の彰さんはというと……。
ベッドの左側を見ると、彼は歯を食いしばり、片手で目元を覆っていた。
その指の隙間からは、透明な雫がポタポタと……。
「彰さん、どうして泣いているんですか?」
「聞くな……嬉しいからに決まっているだろ」
ベッドに膝立ちして、彰さんに向け両腕を伸ばした。
いつもは抱きしめてもらうばかりの私だが、今は男泣きしている彼の頭を胸に抱いてあげた。
すぐに私の腰にも彼の両腕が回り、喜びの中で私たちはお互いを抱きしめ合う。
後ろにパタンと音がしたのは、理事長先生と秘書のふたりが気を利かせて出て行ってくれたから。
「彰さん……祝賀会に戻らなくていいんですか?」
「戻る。だが……あと少し、もう少しだけこうしていたい……」
私のブラウスの胸もとがしっとりと湿っているのを感じていた。
中々、涙を収められずにいる彰さん。
そういえば、彼が泣くのを見るのは初めてかも。
強引に力強く皆んなを引っ張るタイプの人だから、きっと泣き顔を見られるのは恥ずかしいはず。
社長としてトップに立つからには、いつも強くいなければならないと思っていそうな気もする。
そんな強い彰さんは頼もしいけれど、こうして私の前で泣いてくれることも嬉しく思う。
私の前でだけはこういう姿を、もっともっと見せてほしい。
強さも弱さも、彼の全てを私の愛で包んであげたいから。
愛してもらう以上の愛を、彼にあげたい。
もちろん、お腹の赤ちゃんにも……。
「もっと泣いてもいいですよ。私、今……そんな彰さんのことを、すごく愛しく感じるんです」
「バカ野郎……本当に止まらなくなるだろ」
いつか、生まれたこの子に話してあげよう。
今日の日のことを。
あなたのお父さんは嬉しくて泣いたんだよって……そんな優しい内緒の話を……。
【 完 】