鬼常務の獲物は私!?
恐る恐る顔を上げると、常務とよく似た社長の目は、目尻にたくさんのシワを寄せて笑っているように見えた。
「君を咎めるつもりはないから、心配しなくていい。驚いて少々困りはしたがな」
「社長……」
「ことが仕事上のことなら厳しく対応するが、宴会での余興だからな。長く社長業をやっていれば、そういう目にあうことも一度くらいはあるだろう」
そっか……と納得していた。
社長業について私は分からないけれど、世の社長さんたちは、社員のミスで料理を頭から被ることが、一度はあるものなのか……。
社長の話を深く頷きながら聞く。
感想は心の中だけで、口に出していないはずなのに、高山さんに「それはないと思いますよ」と小声で言われてしまった。
私の失態を広い心で許してくれた社長は、今、アハハと声に出して笑っていた。
ホッとして隣に立つ神永常務を見上げると、「ほらな」と言いたげな視線を返され、いつもはムスッとしている口の端が、少しだけ上向きに上がっていた。