鬼常務の獲物は私!?
「ありがとうございます!」とお礼を言ったのは、社長と常務のふたりに対して。
社長は一度、頷くと、チラリと腕時計に視線を落とした。
「ゆっくり話をしたいところだが、この後、外に出る予定があってな」
「分かりました。我々はこれで失礼します。
お時間を取っていただき、ありがとうございました」
最後は神永常務が締めて、一礼してから社長室を後にしようとした。
一件落着。緊張と不安から解き放たれて、心と顔が同時に緩む。
社長室のドアを開けたところで、社長が常務を引き止めた。
「彰(あきら)、今日のお前は随分と楽しそうじゃないか。どうしたんだ?」
彰は神永常務の名前。
そういえば、そんな名前だったと思うと同時に、社長が随分と楽しそうだと言い表したことを疑問に思った。
常務が楽しそう……?
笑っているわけじゃないし、テンション高めにも見えないし、どの辺が楽しそうなのか、私には分からない。
父親だから分かるのかなと思っていたら、常務がドアノブを掴んだまま、体半分を社長に向けて答えた。
「楽しいですよ、狩りをするのは」
「ほう、狩りか……」