鬼常務の獲物は私!?
社長は椅子を45度回転させて立ち上がると、手を後ろに組み、なぜか私をチラリと見てから常務に言った。
「まだ若いお前を止める気はないが、火遊びはほどほどに。火事を起こさんようにな」
「はい……心に留めておきます」
常務が先に社長室を出て、高山さんに押し出されるように私も続き、ドアはパタンと閉められた。
なんだろう、さっきの親子の会話が引っかかる……。
狩りとか、火遊びとか、多分なにかの比喩だと思うけれど、私には分からない。
それまでにこやかだったのに、最後の社長は笑っていなくて、私のことを意味ありげにチラリと見たりしていたし。
社長室から離れて廊下を歩き出す。
常務の濃紺のスーツの背中を見ながら考えていると、まさかと思うことが浮かんできた。
狩られる獲物って、まさか私じゃないよね……?
身の危険に気づきかけた時、常務が急に足を止めるから、背中にぶつかってしまった。
「ご、ごめんなさい!」
ここは神永常務の部屋の前。
考えながら歩いている内に、いつの間にか下りるべき階段を通り過ぎてしまっていた。