鬼常務の獲物は私!?
高山さんは一礼すると、出て行ってしまった。
すると神永常務が素早く動いて、ドアの鍵をカチャリとかけた。
「ソファーに座ってくれ」
広さ10畳ほどの常務室の中には、大きな仕事机の他に、黒い革張りのソファーセットが置かれていた。
そこに座るように指示されたのだが、ふたり切りのこの状況が危険に思えて、ソファーには座らずに逃げる方法を探していた。
「神永常務、あの……」
午後イチで頼まれている仕事があるので、今すぐ営業部に戻らなければならないと説明した。
事実、営業部の元村係長に、看護師さん向け新型シリンジポンプ使用説明会の資料を、パワーポイントで作成するように命じられている。
ただ、期限は午後イチじゃなく明後日までで、少しだけ嘘をついてしまったことが、チクリと胸に刺さっていた。
嘘をつき慣れていないので、私の目はきっと泳いでいることだろう。
バレちゃうかな……。
背中に冷や汗まで流していたら、神永常務が机の方に移動して、受話器を取り上げ、どこかに電話をかけ始めた。
「神永だ。営業部の元村係長に繋いでくれ」
まさか確認を取られるとは思わなかったので、焦りはさらに加速する。
嘘がバレる……怒られる……どうしよう……。
オロオロしてもどうにもならず、神永常務は元村係長と話し出してしまった。
「お前の所の福原を、これから20分ほど借りたいのだが、なにか問題はあるか?
ーーーーそうか、わかった」