鬼常務の獲物は私!?
変なの……。
神永常務は恐い人のはずなのに、逃げようとする気持ちが急にしぼんで、足が素直にソファーに向かっていた。
常務が私のために入れてくれる珈琲を、是非飲んでみたいという気持ちにもなっている。
ソファーはひとり掛けと3人掛けが、L字に置かれていて、3人掛けソファーの左端に、私はちょこんと腰掛けた。
テーブルはガラスの天板で、指紋ひとつ付いてなく、ピカピカに磨かれていた。
それを見て、高山さんが毎朝、事務的な笑顔で磨いている姿を想像してしまう。
多分当たっていると思う。
高山さんは秘書という仕事を越えて、神永常務のためなら、なんでもやりそうな気がするから。
難しそうな本や仕事関連のファイルが整然と並べられた書棚の横に、細長いサイドテーブルが置かれていて、神永常務はその前に立って珈琲を入れていた。
珈琲マシーンが小さな唸り声を二度上げると、トレーを片手に常務がこっちに歩いてくる。
私の前のテーブルに、ミルクポットと砂糖入れ、それから湯気立つ珈琲カップが置かれた。
常務は自分の分のカップを手に、3人掛けソファーの右端に腰を下ろした。