鬼常務の獲物は私!?
顔をだらしなく緩めて空想したことが、そのまま口に出ていた。
「へぇ……こうか」
低く不機嫌な声が右横から聞こえたと思ったら、急に膝の上に重みを感じた。
神永常務の頭が、私の太ももの上に乗っているのだ。
これはもしや……膝枕?
生まれて初めて、太郎くん以外の生物を膝の上に乗せたので、どういう反応をしていいのか分からず戸惑ってしまう。
「あ、あの、常務……」
「膝の上に乗ったぞ。
それから太郎はどうするんだ?」
「え、えっと、私が頭を撫でてあげたら、太郎くんは……」
「やってくれ」
「え?」
「撫でろ」
恐る恐る右手を持ち上げて、そっと常務の頭を撫でてみた。
髪の毛は思ったより柔らかく、ヘアワックスがついていない部分はサラサラしている。
常務の顔はテーブルの方を向いているので表情は見えないが、私の膝にかかる吐息にはもう、不機嫌さが消えているように感じた。
「気持ちいいな……」
常務がポツリと呟いた。
「はい……私も気持ちいいです……」
手の平にサワサワと当たる髪の毛と、太ももの上の適度な重みと温もり。
人間に膝枕をするのって、気持ちがいいものなんだ……。