鬼常務の獲物は私!?
ただ残念ながら、恋人のいない私にレストラン情報は不必要。
その日は生活必需品の買い出しをして、掃除に洗濯をしてから、心ゆくまで太郎くんと戯れる、そんないつもの土曜日になる予定だった。
「どうしよう……」
無意識に、そう呟いていた。
特に予定はないけれど、断った方がいいよね?
デートといえば、たぶんレストランで食事。
ご馳走になったのに、お付き合いはしませんと断るのは失礼だと思うし……。
そう結論を出して断りの文面を打ち込もうとしたら、星乃ちゃんにスマホを奪われてしまった。
「え? 星乃ちゃん、まさか……待っ……」
私が待ってと言い終わる前に、星乃ちゃは勝手に文章を素早く打ち込み、送信してしまった。
返されたスマホを確認したら、【楽しみにしています】という文章に、ハートの絵文字まで付けられていた。
慌てる私の手の中でスマホが震え、神永常務から返事が返ってきてしまう。
【断られることを予想していたから、ホッとした。詳しい時間は後ほど。ありがとう】
「あの神永常務が、ホッとした、ありがとうだって。これは、かなり喜んでいるみたいだね」
「うん……」
それは鈍い私にも、ちゃんと伝わっている。
命令口調の文章を送りながらも、本当は断られる不安を感じていて、そして今、すごく喜んでいるということを……。
今のは間違いで、やっぱり行きませんとは、私に言える勇気はなかった。
「星乃ちゃん、困るよ……」
珍しく文句を口にするのが精一杯で、スマホはそのまま制服のポケットにしまうしかなかった。