鬼常務の獲物は私!?
「失礼します」と、そのまま隣に乗り込もうとして思い直す。
ポツポツと降っている雨が、着ているキャメルのコートに水滴を付けていた。
高級車のシートを濡らすことにためらいを感じて、脱いでから中に乗り込んだ。
後部席のドアを閉めて運転席に戻った高山さんが、すぐに車を発進させる。
デート内容の詳細は聞かされていないので、どこへ向かうのかと気になり窓の外ばかり見ていたら、「こっちを向け」と常務に言われた。
車窓から神永常務に視線を移して、あれ?と思う。なんだか、いつもと感じが違うような……そうか、髪型が違う。
社内ではビジネスマンらしく真面目に清潔に整えられている黒髪は、今は毛先を少々遊ばせて、オシャレな無造作感が出ていた。
服装も、よく見ると違う。
前ボタンを開けたコートの中は、黒のジャケットとグレーのカットソーが見えていた。
スーツに白いワイシャツ、ネクタイを締めた姿しか見たことがなかったので、今日の常務は新鮮に映る。