鬼常務の獲物は私!?



その気持ちはどうやら神永常務も同じみたいで、手を伸ばし、私の肩下までの髪に触れて言った。


「今日は髪を下ろしているんだな」


会社での私はいつも、長い髪をひとつに束ねて、ねじって丸めたお団子ヘア。

ヘアクリップを変えたり、サイドを編み込んでみたりする程度の変化しかない。

でも今日は緩くウェーブの付いた焦げ茶色の髪を、そのまま下ろしている。


「制服以外の姿を見るのも新鮮でいいな。
髪型も、その服も、よく似合っていて……可愛い」

「あ、ありがとうございます……」


ストレートな言葉で褒められて、恥ずかしさに顔が熱くなる。

でも、心は喜ぶのではなく、お褒めの言葉は私がもらったらいけないんじゃないかという気持ちになっていた。


神永常務が褒めてくれたこの服は、白いニットのワンピース。生地がフワフワで触り心地がいいし、デザインも可愛らしい。

ただ、これは私の物じゃなく、営業部のひとつ上の先輩女子社員、絵梨子さんの物。

キャメルのコートは4つ上の典子さんの物で、同色のちょっと高そうなハンドバッグは、玉置さんの物。

パンプスは理香ちゃんの持ち物で、私物はというと、下着とストッキングだけだった。


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