鬼常務の獲物は私!?
そんな私の妄想は、所々が口に出てしまっていたようで……。
「日菜子!」と耳もとで名前を叫ばれた後に、顎先を摘まれて、強制的に顔を神永常務の方へ向けられてしまった。
20センチの至近距離に整った顔があり、驚いてハッと我に返った。
「あ、あの……」
「妙な妄想をするな。高山の言った"慕う"の意味は、恩義に近いものだ」
「恩義……ですか?」
「そうだ。高山は以前に……まぁいい、話せば長くなってしまう。とにかく、お前が思うような関係ではないから勘違いするな」
神永常務は私の顎先から指を離し、近すぎる顔の距離も元に戻すと、溜息をついていた。
念のために運転席に向け、「そうなんですか?」と聞いてみたら、笑いを堪えているような様子の高山さんが、前を見たまま頷いていた。
「神永常務は私の恩人なんです。お慕いしているのは事実ですが、恋愛はお互いに女性としかしない主義ですので」
なんだ、そうなんだと理解すると共に、なぜかガッカリしてしまう。
神永常務は不機嫌そうな顔をして、高山さんに不満をぶつけていた。