鬼常務の獲物は私!?
私が好きそうな映画をと考えて、神永常務はこのチケットを買ってくれた。私を楽しませるために。
その想いを傷つけたくないので、初めて観るフリをしようと思っていたのに……私って、嘘をつくのが下手みたい……。
「既に観たということか」
常務は低い声でそう言って、不機嫌そうに舌打ちした。
「すみません……」
先に観てしまったことと、優しい嘘をつけなかったことの両方の意味で謝った。
「映画はやめだ」
常務が来た道を引き返そうと向きを変えるから、焦ってしまう。
「そんな!
せっかくのチケットがもったいないです」
「隣で退屈そうにされるより、観ない方がマシだ」
「待って下さい!
私は2回観ても絶対に楽しめますので……」
ご機嫌を損ねてしまった常務の腕にすがり、必死に引き止めていると、グルグルグル、キュ〜と、どこかで変な音がした。
それは……私のお腹の音。
神永常務と話しながらも、さっきからずっと気になっていたのは、この匂い。
すぐ横には有名なファストフード店があって、揚げたてフライドチキンの香りが辺りに漂っているのだ。