鬼常務の獲物は私!?
コンクリートの壁に黒いドア。
その取っ手を引いて恐る恐る中に入ると、耳障りのよいジャズが聞こえてきて、長いバーカウンターとテーブル席が5つある、細長い空間が目の前に広がった。
シックな色合いでまとめられた店内は、大人の空間。
抑え目の照明に照らされた通路を、黒いベストに黒いズボンを履いた、見目好い男性店員が歩いてきて、私たちに会釈した。
「神永様、いらっしゃいませ」
「予約より早く着いてしまったが、空いているか?」
「はい、空いております。どうぞこちらへ」
案内されたのはカウンター席でもテーブル席でもなかった。
通路を真っ直ぐ進んだ先に『VIP』と書かれたドアがあり、そこを開けてさらに奥へと通される。
扉の先には長い廊下が続いており、ドアが幾つか並んでいて、中から微かに笑い声が聞こえてきた。
二階もあるようで、階段から誰かが下りてきて、私たちとすれ違った。
あれ? 今の人って……。
すれ違ったのは男女のカップル。
男性の後ろを歩く女性は、下を向いていたため顔は見えなかったが、男性には見覚えがあるような気がした。