鬼常務の獲物は私!?
すれ違った後に、知り合いだっただろうかと考えて、ハッと気づく。
今の人は、注目度ナンバーワンと世間で騒がれている有名な若手俳優だ。
後ろを歩いていた女性はきっと彼の恋人で、うつむいていたから誰か分からなかったが、もしかして、女性の方も芸能人だったりして……。
通路は広くないので、男性店員の後ろに私、その後ろに神永常務と、縦並びに歩いていた。
思わず振り返って、さっきの女性が誰なのかを知ろうとしたら、神永常務に背中をトンと押され、「真っすぐ歩け」と叱られてしまった。
「ここはそういう店なんだ。
他人のプライベートに干渉するな」
「す、すみません……」
一応謝ってみたが、"そういう店"とは、どういう意味なのかと考えていた。
芸能人がお忍びで食事をしに来る店で、VIPと書かれた扉の先のこのエリアは、秘密を抱えた人が利用するということなのか……。
でも、私に秘密はないし、神永常務にもこれといって、秘密があるようには思えないのだけれど……。