鬼常務の獲物は私!?
布越しに常務の体温を感じて、どうしても思い出してしまうのは、常務室での膝枕。
こんなに距離が近いと、またなにかされてしまうのではないかと、心が落ち着かなかった。
ドキドキしている私の隣で神永常務は、ソファーに深く背を持たれ、くつろぎ体勢でメニュー表を開いている。
「日菜子、なにが食べたい?
ここは創作料理の店で、和洋中なんでも揃っている。厨房を仕切っているのはホテルモモクラの元料理長だから、味も確かだ」
落ち着かない胸の内を隠して、手渡されたメニュー表に視線を落とす。
そこには、美味しそうな料理の写真と料理名は載っていても、値段は書かれていなかった。
もしや……相場というやつなの?
今さらだけど、神永常務って……御曹司のお金持ちなんだね……。
「これがいいんじゃないか?」と常務が横から指差したのは、クリスマス・スペシャルディナーコースだった。
全6品のコースメニューの中に、フォアグラとか、オマール海老とか、神戸牛とか、高そうな食材の名前がたくさん書かれていた。
高級食材たちに目が眩み、私の視線は見慣れた庶民的な名前を探して、メニュー表をさ迷ってしまう。