鬼常務の獲物は私!?
神永常務の右手の中で、ブランデーグラスの氷がカランと音を立てていた。
ひと口飲んでグラスをテーブルに戻し、常務の左腕は私の肩を抱き寄せた。
「どうだ、今日は俺と出掛けてよかっただろ?」
「はい……美味しかったです……」
「俺と一緒にいれば、これからもいい思いができるぞ」
「満腹天国……素敵ですね……」
眠気のせいで、肩を抱き寄せられても抵抗する気にはならない。
霞がかる意識の中で、頭を持たれることができてちょうどいいかもと思うだけだった。
静かに流れるジャズが心地いい。
会話しながら頭に浮かぶのは、さっき食べた高級食材たちが、ジャズに合わせて踊っている姿。
「日菜子、早く決断しろよ。
俺の方がお前を幸せにしてやれる」
「はぁ……」
「太郎には不可能な贅沢をさせてやれるんだ、悪くないだろ?」
「……へ?」
なぜか突然、太郎くんの名前を出されて、ペラッペラのピザ生地みたいに広がっていた意識が、ひとつの塊に戻ってきた。
すると……目の前に神永常務の顔があることに気づき、息を飲む。
彼の左腕は私の肩をがっちりホールドし、右手は顎先を固定していた。
逃げられない状況で、端正な顔が斜めに傾き、近づいてきて……。