鬼常務の獲物は私!?
それまで穏やかなリズムを刻んでいた心拍が急加速し、パニックの中に落とされてしまった。
なんで、どうして、いつの間に⁉︎
驚きすぎて悲鳴さえ上げられない状況で、ピリリと鳴り響いたのは、神永常務のスマホの着信音。
ジャケットのポケットの中にあるようで、私の体にバイブの振動も伝わってきていた。
「あ、あ、あの、鳴ってますけど……」
「……」
「神永常務! スマホが鳴りまくりです!」
チッと舌打ちして常務は私を放し、スマホを取り出した。
ディスプレイを見て、おまけの舌打ちを、もうひとつ。
「なんだ。ーーああ、ーーああ、あ"?」
誰からの電話か分からないが、キスは未遂で、助かったとホッと息を吐き出した。
狭いソファーの上でできる限り肘掛けの方に体を寄せて、不愉快そうな常務から、なるべく離れようと努力していた。
そんな私の様子には気付かずに、神永常務はスマホに向けて声を荒げた。
「迎えなどいらん! タクシーくらい自分で呼べるから、放っといてくれ! いいところだったのに邪魔しやがって……くそっ。
高山、覚えてろよ。今日の腹いせに、会社でこき使ってやるからな」