鬼常務の獲物は私!?
どれくらいの時間、唇を合わせていたのか……。
あっという間だった気もするし、ものすごく長かったようにも感じる。
唇が離された後も余韻に浸って、私の頭はぼんやりしていた。
濡れた私の唇を、神永常務が親指で拭ってくれて、その指で自らの唇も拭う。
そして、真顔でジッと私を見つめてから、常務はニヤリと笑った。
「なんだ、その顔は。
俺のキスは、そんなに気持ちよかったのか?」
「はい……こんなの初めてで……」
「初めて? へぇ……太郎のキスじゃ、お前は満足できないってことか……」
「え?」
私が朝寝坊していると太郎くんは、ご飯の催促に起こしてくれる。
前足で顔をペシペシ叩いたり、口もとをペロペロ舐めてきたりして……。
それをキスと言っていいのか分からないが、猫の舌はザラザラしているから、舐められても確かに気持ちよくない。
「そうですね。太郎くんの舌は、あまり気持ちよくないかもしれません」
正直にそんな感想を伝えたら、神永常務は片眉を吊り上げて少し驚いて見せた後に、満足そうな笑みを浮かべた。
「お前が太郎から離れる日は近そうだな」
「へ? それはないですよ。
私と太郎くんは、ずっと一緒です」
「ふん、今はそう思っていればいい。
近い内に必ず、お前を奪ってやるがな」