鬼常務の獲物は私!?
神永常務は猫嫌いなのに、こうして太郎くんの名前を度々出してくるのはどうしてなのか……。
手に入れたい女が猫を飼っていたら、そんなに許せないものなのか……。
常務の心は私には分からないが、交際の条件に太郎くんと別れることが入っているなら、お付き合いすることは不可能だ。
猫嫌いの常務と猫大好きな私では、相性が悪い気がする。会話も時々、噛み合わない気がするし……。
お店を出たのは、それから10分後のこと。
時刻は23時近くなっていた。
夜景の見えるバーで飲み直さないかと誘われたが、それを断った。
「家で太郎くんが待っていますので……」
常務は私を引き止めはしなかった。「ふん」と鼻を鳴らし、眉間にシワを寄せただけ。
相当の猫嫌いなのだと感じ、それを残念に思いながら、店員に呼んでもらったタクシーに常務と一緒に乗り込んだ。
夜の街に走り出たタクシーの中で、気まずい空気が流れていた。
もう一軒という誘いを断ったことが不愉快なのか、それとも断る理由が太郎くんだから不愉快なのか……。
神永常務は睨むような視線を前方に向けたまま、なにも喋らない。