鬼常務の獲物は私!?
常務のこういうところが、苦手で……。
重役という肩書きだけでも気後れしてしまうのに、綺麗に整った顔で睨みを利かせると、迫力というか凄みを感じて、恐い人だと思ってしまう。
そんな心の壁が、今日のデートで少しだけ崩れたように感じていたが、不機嫌さを隠さない今の様子に、心は振り出しに戻されてしまった。
タクシーは静かに走り続け、30分ほどして私の住むマンション前に到着した。
「ここに住んでいるのか。ボロいな……」
「はい。築45年のオンボロです。
でも住み心地は意外といいんですよ」
後部席のドアが自動で開き、私は地面に足を下ろす。
「今日は色々とありがとうございました」とお礼を述べて、深々と頭を下げた。
プレゼントのネックレスに、高級料理。
私のために大金を使わせてしまったことを、申し訳なく思う。
それなのに常務は「悪かったな……」と、逆に私に謝ってきた。
「え?」
「今日は太郎に内緒で出てきたんだろ?
嘘をつかせて、悪かった」