鬼常務の獲物は私!?
「寄生している身であることを理解して、日菜子を束縛できずにいるということか……。
他の男と遊びに行かれたら、男としては辛いが……太郎は所詮ニート。自業自得で同情はできんな……」
神永常務はなにかをブツブツ言いながら、ひとり、考え込んでいた。
その時、プップとクラクションが鳴らされた。
車一台しか通れないマンション前の狭い道に、後ろから他の車が入ってきたのだ。
慌てて私は後ろに下がり、タクシーから離れた。
「ありがとうございました。
お休みなさい」
タクシーのドアは自動で閉まり、まだなにかを考え中の神永常務を乗せて走り出す。
それを見送った後、私は階段を駆け上がって3階へ。
自宅のドアを開けて「ただいま!」と駆け込むと……部屋の惨状を目にしてしまった。
棚から写真立てや化粧水のボトルが落ちて、割れている。観葉植物の鉢も倒され、土がラグに溢れていた。
「太郎くん、なにやってんの!」とは叱れない。
寂しかったんだよね、ごめんね。
帰りが遅かったせいか、すっかり拗ねてしまった太郎くんは、「おいで」と呼びかけても猫タワーの上から降りてきてくれない。
仕方ない……誕生日用にと特別に買っておいた高級ネコ缶で、ご機嫌を取ってみようかな……。