仲間ってなんだろう
正樹にも彼女がいたことがないわけではなかった。
だけどそれは遠い昔の話で、芸能界にのめり込んで行ってからはほとんどそんな経験はない。
「何言ってんだよ。お前には沙羅がいるじゃねーか。」
その言葉を聞いて正樹はまた立ち止まった。
「……は?沙羅?」
「……え?お前らそういう関係ではないわけ?」
仁も驚いて立ち止まった。
「そ、そういうのっていうのは……」
「恋愛。」
正樹の数回の瞬きを見て仁は盛大なため息をついた。
「お前なぁ!そこまで親しくしといて何もないっての?」
「何もありませんよ!
沙羅は僕達にとって妹みたいなもんだって、話したことありませんでしたっけ?」
「あったけどさ、それは表向きって話だろ?」
仁は呆れたようにため息をついた。
「沙羅もお前のことを信頼しきってるし、何でも話してるんだろ?
お似合いだと思うけどなぁ。」
「どう考えたらそういう結論に至るんですか。」
正樹はため息をついた。
沙羅は正樹に何でも話してくれるし、正樹だって沙羅に隠していることはほとんどなかった。
しかし仁は違う。
仁は正樹が芸能人になることを断念して記者の道に入ったことを知っている。
しかし何年も一緒にいて、正樹はその理由を仁に話したことはなかった。
「先輩、実は俺……」
正樹が口を開くと仁はニコッと笑った。
「うん?」
正樹はぎゅっと自分の右腕を掴んだ。
強く掴まれた服が大きなシワを作った。