Christmas Rose
その日の夜、王族が集まって晩餐会が開かれた。


定期的に開かれる晩餐会。
こういう場はアリスは苦手だった。

今夜の晩餐会はレイドとリエルも出席している。

相変わらず会話はなく、あまりに他人行儀な二人の態度に心配する声も…


アリスは一人で出席していた。

シドとゼノがまだ城下町から戻らないのだ。

ガチャ…

扉が開いて、王妃様がやって来た。

国王の姿も見えない。


「…国王様は体調が優れず今夜は欠席いたします。さぁ、始めましょう。」

王妃の言葉でグラスが交わされて、晩餐会が始まった。

カチャカチャと食器の鳴る音。
甲高い声を上げ笑う夫人たちや、ヒソヒソと暗い面影で話をする人たち。

アリスは何度も時計を見ては、シドの事を心配していた。


「…今日、国王様と次にこの国を治める次期国王についてお話をしました。」

王妃の言葉に、皆は話をやめ王妃に注目した。

国王様は以前話した時、もう王の座をシドへ譲ることを決めていた。


「…王の役目。それは国を治め民のために力を尽くすこと。そしてもう一つ。王家の血を絶やさないこと。」

王妃の言葉にアリスの手は止まった。


「いくら優れた才能があろうと、王家の血を絶やすことはあってはなりません。私は、次期国王はその血を絶やさぬ者に譲るべきと考えております。」

王妃の言葉にその場は一気に騒ついた。

王家の血を絶やさない。

つまりは、世継ぎを早く産んだ方に王権を譲るとでも…?


「…先に生まれたからといって、王になれるとは限りません。」

王妃は真っ直ぐにアリスを見て言った。


その言葉はアリスの胸の奥深くを貫くようだった。

バタンッ

その時、扉が勢いよく開いた。

シドとゼノが戻って来た。


「遅くなりました。」

シドは王妃の前まで歩いて行くと膝をつき深く頭を下げた。


「…今のお話つまりは、レイドも王位継承権は持ち合わせているという事でしょうか。」


涼しげな表情でハッキリと言うシドに、王妃は少し笑みを零した。


「…ええ。国王も了承済みです。」

そんな…
アリスは思わず立ち上がりそうになった。

シドは今まで王になる為頑張ってきたのに。。

今更レイド様にも王位継承権が与えられるなんて…

「…分かりました。王のお考えなら私も従いましょう。ならば、レイドに私の管轄している領域の半分を渡すことにします。」

その言葉に王妃は表情を歪め、レイドもシドを見た。

「…王位継承者ならば、それくらいの事はやってもらはねばなりません。」

「…いいでしょう。」

王妃の言葉にシドはニッと微笑み、立ち上がった。


グイッ


そして、アリスを椅子から立たせると腰に手を回し自分の方へ引き寄せた。


「…今夜の晩餐会、私とアリスはこれにて失礼させて頂きます。」

「…えっ?」

それだけ言うと、皆唖然とするなかマントを翻し部屋を後にした。



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