Christmas Rose
その日の夜、アリスはベッドで本を読んでいた。
しかし、本は同じページを開いたまま。
コンコン
ノックの音にハッとして顔を上げた。
いつものように侍女が入って来た。
「…今宵、シド様は遅くなるとの事。お先にお休みくださいと…」
「シド様は」
侍女の言葉を最後まで聞かず、アリスは口を挟んだ。
「…他のお方の所へ行かれているんですね。」
アリスの言葉に侍女は驚いた。
「アリス様。」
すると、後ろからエドが入って来た。
「…君は下がっていい。」
侍女を帰すと、静かに扉を閉じた。
ゆっくりと、浮かない顔のアリスの元へ歩み寄っま。
「…如何致しました。侍女にあの様な事をお聞きになるなんて。」
「…噂を、耳にしたんだ……」
エドは表情を歪ませた。
シド様は毎夜マルヴィナ様の元へ通っているー
「…マルヴィナ様は私より前からこの城にいらした。それを後から来た私が今更シドとの関係をとやかく言うつもりはない。だが、世継ぎを産むことだけが役目の私に、子が出来なかったら私はどうなる?」
アリスの言葉に、エドは手を握りしめた。
「…大丈夫です。」
エドは膝をつき、いつもの優しい表情をアリスに向けた。
「城内での噂話などお気になさらず、アリス様は今までの様に強いお心をお持ちになっていれば、きっと大丈夫です。」
強い心…
確かに、ここへ来て私の精神は少し弱くなっていた様だ。
今までどんな事を言われても平気だったのに、侍女達の話を聞いたくらいで…
「…ありがとう、エド。」
アリスはにっこりと微笑んだ。