Christmas Rose
湖に月が映し出されている。

アリスはぼんやりと映し出された月を眺めた。


その場に腰を下ろし、膝をかかえ目を閉じた。

涙は止まる事なく流れ続ける。

アリスのすすり泣く声が響いた。


「どうかしましたか。」

突然、後ろから男の声が聞こえた。

アリスが振り返ると、ローブを羽織った男が立っていた。


「…誰だ!」


「・・・私は通りすがりの旅人です。今晩休む場所を探していたら、誰かが泣いている声が聞こえたので。」



アリスは咄嗟に頬を伝う涙を拭った。



「な、なんでもない。」

アリスは立ち上がり、男に背を向けた。


「この国の方ですよね?」


「あ、ああ。そうだ。」


男は羽織っていたローブをとった。


月明かりが男の顔を照らした。


「…僕で良ければ、話し相手になりましょう。」


見惚れてしまうような、美しい顔をした男は、アリスの隣に腰掛けた。

「こんな夜更けに、一人で泣いているなんて、余程辛いことがあったのでしょう。私は外国から今日偶然この国に立ち寄った旅人です。気にせず話してください。」


男の穏やかな口調に、アリスは今まで感じたことのない安心感を覚えた。


「…私は、この国の王女。。今日、父から他国に嫁ぐように言われました。」


「王女様?!」


男は驚いた顔をした。


「…申し訳ありません。王女様とは知らず、馴れ馴れしく声をかけてしまい…」

「いい。あなたは外国から来たのでしょう?私も今は城を抜け出してきた、ただの女です。」

アリスは深くため息をついた。

風で湖の水が揺れる。


「…あなたのお父様とお母様って、どんな人?」


「父と母、ですか?」


アリスの質問に、男は不思議そうな顔をした。


「父は、厳しいけれどとても尊敬しています。母はいません。でも、母のように育ててくれた人はいます。」


男の言葉に、アリスはとても羨ましく思った。


「私の母は、姉を産んだ後すぐに体調を崩し、寝込むことが増えた。私を身篭った時も命が危ないと言われていたらしい。だが、国の後を継ぐ男がいない。母は命がけで私を産んだ。」



男を…この国の未来を背負う王子が生まれてくることを願って…



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