ガーデン・クロニクル~ゼロ歳からの冒険譚~
穏やかな日々が続いて、だんだん、私も成長していくのが分かった。
気付けば、金色の人が話す言葉の殆どが分かるようになってきたし、立ち上がったり動き回ったりするのもできるようになってきてる。
「ラティア、危ないよ」
「ああー!」
金色の人と私の洋服棚をよじ登っていたら、何かに捕まれたような感覚がして、無理矢理床に降ろされる。
「ぶぅ」
「目を離すとすぐおてんばするんだから……」
私は洋服棚、金色の人はドアの近くにいる。直接捕まれて降ろされた訳じゃない。
超常現象というか――この世界では当たり前のことなんだろうから超常現象っていう表現はおかしいか――つまりは、魔法だ。
「だでぃー」
「はいはい、ただいま」
「おたえぃ」
この人以外の人に会ったことがないし、この人もこの人で「◯◯でちゅよー」みたいなことをしないので、名前も、どう呼んでいいかも分からない。
なので、一応ダディーって呼んでいる。多分、父親なんだろうし。
「パパ」「お父さん」とかの一般的な呼び方は、まだ発音が難しい。色々と思い付く言葉を試してみて、一番やり易かったのが「ダディー」だった。
ダディーも気に入ってるらしい。
「ご飯、持ってきたよ」
「あい」
私は今まで、この部屋から出たことがない。
広い部屋で、ベッドもテーブルもお風呂もトイレもあるから、ひょっとしたらワンルームの家なのかもしれないと思ったこともあるけど、多分違う。
ダディーがご飯を取りに行ったり、何らかの用事で部屋から出るときにドアの隙間から外を覗いたら、廊下みたいな場所だった。
ドアの先は、外じゃない。
ここは、広い建物の、一室だ。
「はい、あーん」
「できる」
「本当に?」
「うん」