ガーデン・クロニクル~ゼロ歳からの冒険譚~



そうして、難しげな会話の後、私はヘケイトさんの部屋に連れ込まれた。ダディーは部屋の外で待っているらしく、入ってこない。



「だでぃ」

「ダディ?もしかして、聖獣様のことですか?」

「うん」

「可愛い呼び方ですねー」



この世界と前世の世界の言語は、全く違う。ダディーという単語は、父親という意味には直結しないのだろう。


にしても、こう、拭いきれない不安感がすごい。

三歳児にとって、親の姿が見えなくなるというのは、やっぱり一大事だ。泣きそうになるのを、頑張って堪える。



「ラティアちゃん、大丈夫ですか?」

「うー」

「聖獣様がいないと、やっぱり不安ですよね。安心してくださいね、すぐに終わりますから」



そう言ってヘケイトさんは、私を抱えたままどんどん薄暗い部屋へ進んでいく。安心してねって言われても、無理です。


たどり着いたのは、暗くて、足元もよく見えない小さな部屋。
ヘケイトさんと同じ香りが漂っている。金木犀に似た、何かの花の香りかもしれない。



「じゃ、ここに座って、ちょっとの間じっとしててくださいねー」

「あい」



かたくて、少し冷たい木製の椅子に腰かけて、前を見る。暗いからよく分からないけど、多分、鏡のような物が目の前に置いてある。



「失礼します」



ヘケイトさんの小さくて細い指が、私の額の右側にそっと触れた。



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