大事なことは、二度も言わない
そんな私の焦りとは裏腹に、ホテルに着いた私たちは驚くほどすんなりと店内へ案内された。
席は、中心街を一望できる大きなガラス窓の前。どう考えても前々から押さえておかないと座れないテーブルだ。
夜景が際立つようにか、店内の照明は暗め。窓際に設置されたスタンドライトのオレンジ色の光が落ち着いた大人のムードを演出し、向かい合って座る私と高宮くんを照らしている。
……くそう、なんてことだ。
「こんなことならあのワンピース着て来れば良かった……」
「なに?」
「いえこっちの話です……」
こんなところでディナーなんて滅多に食べられないのに。よりによって服が限りなく普段着に近いタートルネックのセーター!
しかもよくよく見ると高宮くんいつもより少しおしゃれしてる気がするし! なんか腹立つ……!
……とはいえ。高宮くんがこんなサプライズを用意してくれているなんて思いもしなかった。
ずっとずっと憧れていて、一度は来てみたかった場所。
夢みたいだ。
すごく、すごく嬉しい。
食前酒に出てきたシャンパンのグラスを手に取り高宮くんに目配せすると、彼もグラスを持ち上げてくれた。
「うわー、慣れないから緊張する! こういうときは何て言って乾杯しようか」
「……普通にメリークリスマスでいいんじゃない」
「そうだね。 じゃあ、メリークリスマス高宮くん!」
こういう場所でグラスをぶつけ合っていいものか一瞬迷ったけれど、えい、と少しだけ、高宮くんのグラスに自分のグラスを当ててみた。
周りをこそこそ見回す私を見て、高宮くんが小さく笑う。つられて私も笑った。
いつも無愛想でぶっきらぼうだけれど。
ふとした瞬間のこういう笑顔が、好きなんだよなあ。