やさしい先輩の、意地悪な言葉
こんな時間がずっと続けばいい。そう思った。

……だけど。




「そろそろ帰ろうか」

腕時計を見ながら神崎さんがそう言った。
私も自分の腕時計で時間を確認すると、まだ十七時だった。


……今日もいっしょに夕飯を食べていきたくて、近くのお店を調べたりしてきたんだけど……、



「……そうですね」

神崎さんは帰ろうとしてるのに、無理に誘ったりはできない……。


私たちはいっしょに駅まで向かった。


ーー……

駅の構内で、私たちはほかの人のジャマにならなそうな隅に移動し、立ち止まる。


「家まで反対方向だからここで別れるけど、まだ明るいし、家まで送っていかなくても大丈夫だよね?」

神崎さんはやさしくそう言ってくれる。
……この前は家まで送っていくよって言ってくれたけど……あの時は、私が泣いてたからだよね。


「はい。大丈夫です。じゃあまた明日、会社で」

「うん。またね」

神崎さんは、すぐに私に背を向けて、私とはべつのホームの方に向かっていく。


行き交う人に紛れていく背中が、だんだんと遠ざかる。


その距離が。

だんだんと離れていくその距離が、なぜか怖くて。



冷たい態度をとられたわけじゃない。今日も神崎さんはやさしかった。


だけど。

なんか違くて。


「……っ」

距離が離れていくことに、急に身震いしてしまった。


気づいたら、私は。



「……神崎さん!」
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