やさしい先輩の、意地悪な言葉
強がってるつもりはなかった。
本当に、そう思ってる。


二山さんは、「俺は勘違いのつもりはなかったんだけどな……」と言いながら、自分の席へ戻っていく。

私も、勘違いじゃなかったらうれしかったけど……実際は勘違いだったのだから、それは仕方ない。



……仕事しよう。

恋愛をすると仕事がうまくいくのかうまくいかなくなるのか……ってこの間考えたけど。
自分がどっちのタイプなのかはわからない。でも、私の場合は失恋すると仕事に対してより集中できる気がする。仕事に集中して、余計なこと考えないようにしようとしてる、って感じだけど。


そんな風に仕事をしていると、「瀬川さん、今日はいつもより仕事が早いね」なんて課長に言われ、いろいろ仕事を頼まれた。仕事が増えればその分恋愛のことは考えずに済むから、今の私にはありがたい循環だった。


そうして、お昼近くになった頃、課長にに頼まれた資料の入ってるファイルを取り出しに書庫室に行った時だった。


「あ……」

神崎さんが、そこにいた。
私の声に反応して、神崎さんが私に振り返る。


「瀬川さん。お疲れ様」

「お、お疲れ様です」

私はなるべくなんでもないフリして、書庫室へと入り、ファイルを取り出すため神崎さんのとなりに立つ。

ふと、神崎さんの手元に目を向けると。


「それ、綴ってるんですか？」

神崎さんの手元には、書庫室のファイルに綴るであろういくつかの書類が。
< 116 / 134 >
表紙・目次

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop