やさしい先輩の、意地悪な言葉
「うん。さっきまで使ってたんだけど、用は済んだから」

「それなら、私が綴っておきますよ。置いておいてください」

営業さんにこんな雑用みたいなことさせちゃいけない。
というか、いつもは『綴っておいて』ってお願いされるんだけどな。ほかの営業さんにも、そして神崎さんにも。
……もしかして、それすら話しかけたくないくらいに実は避けられてる? と、ちょっと、いやかなり不安になってると……。


「いや、忙しそうだったから」

「え?」

「瀬川さん、今日は課長にいろいろ頼まれてて忙しそうだったから。それに、書類を戻す場所とかこの前教えてもらったし。自分でできることは自分でってね」


……そのやさしさが、うれしくて。
いや、やさしさに喜ぶくらいなら、いいよね。
……女の子としてじゃなく、ただの先輩と後輩っていう関係のうえでのやさしさ、っていうことをちゃんとわかっていれば。


「ありがとうございます。でも、神崎さんも忙しい時は私に言ってくださいね」

そう言って、私は課長に頼まれたファイルを探し始める。


……すると。



「瀬川さん」

名前を呼ばれて、もう一度神崎さんに振り返る。
……名前を呼ばれるだけで、なんだかうれしくなってしまう。

……でも。


「今度さ、合コン行く気ない?」

「え……?」

「同期に誘われててさ。いつもは断るんだけど……まあ同期同士の付き合いもあるし、顔を出すくらいはたまにはと思って。
で、うちの店の誰かかわいい女の子も連れてきてって言われてるんだよね。瀬川さんいっしょに行かない? いい出会いがあるかも」
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