やさしい先輩の、意地悪な言葉
ど、どうして。なに、言われるんだろ。
電話に出たくない気持ちが強かったけど……隆也は今、私がお昼休みの頃だろうと思って電話かけてきてるはずだし、今電話に出なくても、あとで折り返さなかったらきっともっと怖い。


私は震える指で通話に出る。



「……も、もしもし」

すると隆也は。


『もしもし』

「う、うん、もしもし」

隆也の声は、思ったよりは普通な感じだった。機嫌がよさそうなわけでもないけど、特に怒ってるというわけでもなさそうだった。


『あのさ』

「うん……」

『今日うち来れる?』

「え……」

もちろん、いいよなんて言えないけど、それ以上に今の隆也の気持ちがよくわからなかった。
私に対して、怒ってるはずなのに。どっちかっていうと根に持つタイプのはずなのに。なんでなにもなかったみたいな。


「……あ、あの……私……」

私は、激しく波打つ心臓を必死に抑えようとしながら、隆也に言葉を返そうとする。



すると、隆也からは夢にも思わなかった言葉が。




『……悪かったよ』

「え?」

『この前。びびらせた』

「……」

この間のことを、そんな簡単に許したくはないけど……。
でもそれ以上に。隆也から、初めて『ごめん』という言葉を聞いた。今までどんなに自分が悪くても絶対に謝らなかった隆也が。そのことに驚いてしまった。


「えと……じゃあ、仕事終わったあとで……あ、でもおうちじゃなくて……うん、北駅のファミレスで」
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