やさしい先輩の、意地悪な言葉
仕事が終わり、隆也と約束していたファミレスに向かった。

隆也からはとくになにも連絡がなかったから、私の方が先に着いたかなと思ったけど、お店に入るとすぐ、喫煙席の奥の方に隆也が座っているのが見えた。


タバコの匂いはニガテだ。でも、隆也は結構吸うから、ファミレスなどではいつも喫煙席だった。


「ごめん、待った?」

隆也を待たせることも、今までほとんどなかった。
「俺も今来たとこ」と隆也は言って、怒ってる風はなかった。



私が席に着くと、店員さんがふたり分のおしぼりとお水を持ってきてくれた。隆也の分も今持ってきたということは、隆也もほんとに今来たとこなんだろうと思った。


「ご注文はお決まりですか?」と店員さんが聞いてきたので、隆也は「アイスコーヒー」と答え、私は「オレンジジュースを……」と答えた。



店員さんがその場を去ると、隆也はさっそく本題を切り出した。

それは私にとっては本題とは言いがたいものだったけど、隆也にとっては本題なのだろう。


「俺、謝ったよな?」

「え?」

「確かに手ぇ出したのはちょっと悪いと思ってる。
でも、もとはといえばお前が悪いじゃん。お前がほかに好きなやつできたとか言うから。
だから、お前が九割悪い。お前も早く謝れよ」


……ちょっとなに言われてるかよくわからなかった。
灰皿投げてきて、髪の毛引っ張って、その態度? 私が悪いの?
……そうは思うのに、隆也が強気の態度でいると、たとえ隆也が悪いと思っていても、私はいつも縮こまってしまいなにか言い返すことはできない。
……今も、まさにその状態だった。
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