やさしい先輩の、意地悪な言葉
「それか、誰とも付き合ったことのない童貞とか? だからお前みたいな女でもいいからやさしくしてその気にさせてあわよくば〜とか思ってたんじゃねーの。あ、超納得だわ。そういう男ならお前に近づいてもおかしくねーわ」


そう言って、神崎さんのことを鼻で笑う隆也に



ーーぷちん。


と、頭の中でなにかが切れる音がした。




それと同時に、



私は、隆也について“わかってたこと”を思い出した。




「お待たせしました、お飲みものになります」


店員さんが、丸いトレーにアイスコーヒーとオレンジジュースを乗せて席までやってくる。


私は

店員さんがアイスコーヒーの入ったグラスに手をかけるのとほぼ同時に、


ーーガッ


と、お水の入ったグラスを右手で掴み、



ーーバシャアァァァ。



隆也にぶっかけた。



そして。




「……片想いがムダな時間だって? あなたが片想いについてどう思おうと勝手だけど……



あなたに構ってる時間の方が、よっっぽどムダだから‼︎!」


私はそう怒鳴り、バッグに入ってる財布から千円を取り出すと、机に叩きつけ、ぽかんとしている店員さんを横切って店を飛び出た。



ーー“わかってたこと”だった。

隆也を黙らせる方法。ううん、隆也から自分を解放してあげる方法。私はそれを、本当は初めからわかっていたのかもしれない……。


サークル内で、隆也はいつも後輩にやたら厳しかった。
でも、先輩には決してなにも言わず、どちらかというと陰に隠れていて。
後輩も、気が強くて言い返してきそうな子にはなにも言わず、私みたいな気弱でなんでも言うこと聞きそうな子にばかり文句言ったり命令したりしてた。
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