やさしい先輩の、意地悪な言葉
ーー恋は盲目。そんなところも“隆也らしい”と思ってなにも言わなかったけど……


私が自分を解放してあげる方法。

それは、隆也に強気ではっきりと自分の気持ちを主張すればいいという、単純極まりないことだった。

そんな単純なことが、私はできなかった。できなかったからこそ、隆也はいつまでも私をそばに置いておこうとしたんだと思うけど。……恋人としてでも女の子としてでもなく、ペットとして。



追いかけられてるわけでもないのに、なんとなく、駅に向かって走っていた。たぶん、走ってると余計なことを考えずに済みそうだったから。


でも、ダメで。いろいろ考えてしまっていた。

それは隆也のことじゃなくて、



ーーどんっ。


「あ、すみません……」

よく前を見ずに走っていたら、誰かとぶつかってしまった。


顔を上げると、そこにいたのはーー……



「神崎さん……?」


それは、今の今までずっと頭の中で考えていた、その人だった。



「なんで、こんなところに?」

神崎さんはスーツ姿で、たぶん仕事終わりだと思う。でも、神崎さんのおうちはこの駅じゃないのに。


「……心配に、なっちゃって」

「え?」

神崎さんは気まずそうに、私から少し視線をそらし、私の質問に答えてくれる。


「……ごめん。昼間瀬川さんにかかってきた電話、もしかしたら瀬川さんの元カレかなと思って、営業室戻るフリして、少し聞き耳立ててた」
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