やさしい先輩の、意地悪な言葉
「え? あ、は、はい」

「じゃあさ、瀬川さんは、俺がなんとも思ってない女の子を自分の家に連れこむような男に見える?」


え……?



そう言われてしまえば……そんなことないです、と思うけど……でも、え? じゃあ、え……?



「……俺は、うれしかった」

「え?」

「ちょっと飲んだだけで記憶が消えるくらい酒に弱い自分は、普通じゃないなってずっと思ってた。
しかも、自分の記憶にないところで相手に嫌なこと言ったり。
こんな自分はまともじゃないなってずっと思ってたから、瀬川さんが俺を飲みに誘ってくれたこと、酔ってもいいって言ってくれたこと……本当にうれしかった」

神崎さんは、まっすぐに私を見つめながら、そう話してくれる。


「だから、瀬川さんがデートに誘ってくれた時、本当は飛び跳ねたくなるくらいうれしかった」

「じゃあ、なんで……」

「……自信がなかった。瀬川さんのことを幸せにする自信が。
瀬川さんが認めてくれたとはいえ、酒を飲むとおかしくなるのは事実だ。いつかそれで傷つけることがきっとあるって思ったら、瀬川さんの恋人になるのは俺じゃない方がいいって思った」

「……っ」

「でも、元カレのところにも戻したくなかった。俺と付き合っても瀬川さんは幸せにはなれないけど、あの元カレのところに戻っても幸せにはなれないって思った。
両想いになりたいわけじゃなかったんだ。瀬川さんが幸せならそれでいい。でも、そのために今日はいてもたってもいられなくてファミレスまで追いかけようとしちゃって」
< 130 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop