やさしい先輩の、意地悪な言葉
でも。

「じゃあ……たとえば俺の愛犬になってくれる? かわいいマルチーズちゃん」

と、私の唇を人差し指で撫でながら、神崎さんはそんな意地悪な言葉を返した。


「あの……んっ」

言葉を発しようと口を開くと、その隙間から神崎さんの人差し指が軽く入ってきた。


……そういえば、神崎さんは二山さんに“マルチーズの飼い方”を聞いてたんだっけ。

そのマルチーズって……もしかしたらやっぱり私のこと……。



「ん……」

ぺろ、と神崎さんの指を舐めてみる……こうしてると……まるで本当に神崎さんのペットになったみたい……。

ただし、一方的にご主人さまに奉仕するだけのペットじゃなくて、ちゃんと、かわいがってもらえるペットに……。


でも。



「ぷは……っ。あ、あの……、いろいろ言って申しわけないのですが、やはりどっちかというと、ペットより、その、こ、こ、ここい……び……」

「恋人?」

「……っ」

神崎さんの言葉に、私はゆっくりと首を縦に振った。


神崎さんにかわいがってもらえるマルチーズがこの世にいるなら、きっとそのマルチーズは、世界一幸せだと思う。
でも、私も同じくらい……幸せになりたいと思う……。
神崎さんのとなりで……神崎さんの恋人として……。



「……好きです。やさしくて素敵な神崎さんが、本当に好きです」

「……ありがとう。俺も瀬川さんが……遥香ちゃんが好きだよ」
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