やさしい先輩の、意地悪な言葉
「ちょうどよかったよ遥香ちゃん。今帰りなの?」

「は、はい。ミスしちゃってその片づけとかで遅くなっちゃって……。あの、それよりどうかしたんですか?」

「うん、俺ちょっと店の外出るからさ、こいつのこと見ててくれない?」

二山さんはそう言いながら、となりで眠る神崎さんに目を向ける。


「か、神崎さんどうかしましたか……?」

「いやいや、ただ酔いつぶれてるだけ」

「酔いつぶれ……?」

「この店の中いまいち電波が悪いから、外出てタクシー呼んできたいんだけど、完全につぶれてるこいつをひとりにするのも心配だし。店員さんに見ててもらおうかと思ったけど、ちょうど遥香ちゃんが見えたから。遥香ちゃんの方がいいなって」

「は、はい。私でよければ、それは全然構いませんが」

「サンキュ。寝てるからたぶん大丈夫だと思う」

「? 大丈夫だと思う?」

「あ、いや。こっちの話。じゃ、悪いね。すぐ戻るから。あ、ここ座ってていいからね。俺と間接キスしてもよければ俺の飲みかけの酒飲んでていいよー」

二山さんはそう言うと、携帯を右手に、お店の外へと出ていった。


私は、眠っている神崎さんを起こさないよう、そっと二山さんが今まで座っていたイスに腰かける。

テーブルの上には、ピザが乗っていたと思われる空のお皿が二枚、少しあまったおつまみが乗った小皿が数枚、そして空のジョッキが二山さんの席と神崎さんの席にひとつずつ乗っていた。
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