やさしい先輩の、意地悪な言葉
すると、神崎さんが「ん……」と目を覚ました。


「こ、こんばんは。具合は悪くないですか?」

私が声をかけると、神崎さんは私の方を見た。


「……瀬川? なんでここに……」

「あ、あの、えと。仕事が終わるのが遅くなってしまって、さっきお店の前を通りすぎたときに偶然二山さんと目が合って、呼ばれて、それで」

「……ふうん……」

神崎さんは短くそう答えると、私から視線をはずし、箸を持つと残ったおつまみを食べていた。


……お酒の入っている神崎さんは、なんだかいつもと雰囲気が違う気がする。

顔はそこまで火照ってないし、寝起きで目が少しとろんとしているだけで、パッと見た感じは普段とそこまで変わらないけど、


……話した感じが、いつもと違う気がする。

まず、『瀬川』って呼んだ。いつもは『瀬川さん』って呼ぶのに。
口調や態度も、いつもよりそっけないというか……。普段のやわらかくてやさしい印象がない……。



「あ、あの、今日はどのくらい飲んだんですか?」

「は?」

「か、神崎さんが飲むのって珍しいですよね。今日はたまたまですか?」

「お前には関係ない」

「ひゃい」

はい、って答えようとしたら怖さと驚きで声が裏返った。

確信。やっぱりいつもの神崎さんじゃない……。
< 25 / 134 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop