やさしい先輩の、意地悪な言葉
そうこうしていると、お店の前にタクシーが到着した。


「ほら、行くぞ。立て」

二山さんが、神崎さんの右腕をつかみ、席から立ち上がらせようとする。


「え、なに、帰るの?」

神崎さんはきょとんとしながら二山さんにそう返す。


「帰るんだよ。お前をこれ以上飲ませられねえから」

「俺はまだ飲む」

「バカ言うな。さっきまで酔いつぶれてたくせに。俺だって飲み始めてたった二時間で帰りたくねーよ」

二山さんは神崎さんを無理やり立ち上がらせると私の方を向き。


「遥香ちゃん、家この近くだっけ? 方面同じならいっしょに乗ってく?」

「あ、いえ。私は確かおふたりとは反対方面ですし、電車で全然大丈夫です」

「そうか? ごめんな。気をつけて帰って」

そう言って、二山さんが神崎さんを連れて、おふたりはお店をあとにした。



……私もいっしょにお店を出ていけばいいんだけど……

なんか、その場から動けなくて。



『ダメ女』

神崎さんから言われたその言葉が、頭の中を駆けめぐる。


……自分がダメ女だということをほかの人から言われた、というショックより、神崎さんから言われた、というショックの方が大きい気がした。


……きっとあれは、酔っ払って飛び出した神崎さんの本音。
やっぱり神崎さんは、私のことが嫌いで、だから飲みにも誘いたくなかったんだ……。
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